北九州の味 福岡で勝負
2010年11月14日
自筆の「日めくり人生訓」を手にする大西章資さん
小倉南区の資さん本社。
■「資さんうどん」社長 大西章資さん(68)
北九州市民に愛されて39年になるうどん屋チェーン「資(すけ)さんうどん」が福岡市進出を果たした。今月7日、同市西区に30店目の橋本店を開店。来春までに太宰府市と粕屋町への出店も決めている。「北九州で育ててもらったが、いつかは多くのうどん屋がしのぎを削る福岡に店を出したかった」と語る。
最初はまったく違う仕事をしていた。24歳のとき、生まれ育った北九州市戸畑区で家電製品の修理会社を興した。専門学校で身につけた技術を生かし、毎日20~30軒の家を訪ね、真空管テレビやステレオなどを直した。
テレビの修理を終え、ブラウン管と画面のガラスとの間のくすみをきれいにふき取ると、「新品になったみたい」と客が大喜びした。「修理するだけでなく、付加価値をつければお客さんはもっと喜んでくれる」と気づいた。真空管を使った製品は電子回路への転換が進み、「自分の出番はなくなった」と4年で廃業。でも、次への創業資金はたまっていたという。
1971年、北九州市内でうどん屋を2店営んでいた知人に請われ、戸畑区の1店を譲り受けて開業した。当初、客足は伸びなかった。原因は味にあると考え、1年半かけてスープの試行錯誤を重ね、ある客から「マスター、うまかった。また来るよ」と声を掛けられた。
「うどんの『う』の字も知らない人間が始めた店。最初の1年半のお客さんのおかげで今の味ができた」と振り返る。鮮度にこだわるスープはチェーン展開する今も各店で1日3回、8時間ごとに仕込む。名物メニューのぼた餅は妻と二人三脚で開発した。
福岡では「やわめん」と言われる柔らかいめんを使ったうどんが主流だが、資さんは比較的コシのある中太めんを使ってきた。ひやむぎ好きが高じて考案した太さ約1ミリの「細めん」も、多くのメニューで選べる。
福岡では「店の名前は何て読むの」と言われることもあるという。北九州で育まれた味は福岡でも受け入れられるか――。自信はある。「一度しかない人生だから、今が勝負だと思った。辛抱強く店づくりに取り組みたい」
昨秋、約900人の社員やアルバイトへの思いを筆でしたためた。
「目があった瞬間にあいさつをしよう」「出会いを大切にしよう」「謙虚さが人間を大きくする」
31種類を書き、「日めくり人生訓」と題して社員に配った。残りを店頭で販売すると「孫に読ませたい」という女性など、常連客が買ってくれた。「私自身ができていることではなく、自分の希望、願望を書いただけ」だそうだ。
(伊藤宏樹)
0コメント